「休養学」って
なんですか?
片野先生インタビュー #1
2024.11.19
#インタビュー
#片野秀樹
いろいろな専門家に話を聞きながら、
休憩について研究していくシリーズの第6弾。
今回は「休養学」の第一人者で一般社団法人 日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹先生。長年、疲労と休養について研究し、休養の重要性を伝えている片野さんが正しい休み方を教えてくださいます。
全4回の対談、おたのしみください。
QKさん
片野先生、はじめまして!
片野さん
はじめまして、QKさん。
QKさん
先生は疲労をずっと研究されてきたと聞いています。疲労の研究って面白そうって、まず気になったんです。
片野さん
疲労の中でも「健康な人たちの疲労」に対応するにはどうしたらいいか考え続けてきました。
健康づくりのためには栄養・運動・休養が3要素と言われています。栄養や運動については学校で習えますが、休養については誰も詳しく教えてくれなかった。私はこれが課題だと思い、みんなの休養のリテラシーをあげるべきだと考えました。
ところで、休養の対義語はなんだと思いますか?
QKさん
えー、わかりません。疲労かな?
片野さん
そうだと思ったでしょう。休養の対義語は「活動」なんですよ。ところが疲労の対義語は今の世の中では抜けていて、「活力」をいれないとうまくいかないんです。
疲労したら、休養をとって、活力を高める。これが現代人に必要なサイクルです。
QKさん
そもそも現代人の疲労やストレスはどこから来ているのでしょうか?
片野さん
現代人は、動く前から疲れていて、世の中の約8割が疲れているんですよ。
昔の人間生活を考えてみましょう。朝起きて、日中活動して、夕方団欒して、疲れたら眠る。人間らしい生活サイクルがありました。けれども第二次産業革命から電気が生まれて、サーカディアンリズム*がどんどん狂い始めます。さらに、パソコン・通信が生まれ、肉体的な負荷が減って、逆に精神的な負荷がかかっているのが、現代です。
*サーカディアンリズム・・・人が生まれながらに持っている身体リズム。「体内時計」とも呼ばれる。
本来シングルタスクの人間が、マルチタスクなパソコンやスマートフォンと向き合って仕事をしているので、無理が発生する。だからストレスになっています。
QKさん
みんな、マルチタスクで効率良くしたいっていう気持ちがありますよね。
片野さん
私は近年「タイパ」と言われている言葉が嫌いなのですが(笑)タイムパフォーマンスを意識するあまり、私たちは意図して余白を作り出さないと、いつの間にか気づかないうちに、バランス調整に必要な余白を奪われているんですよ。
*タイパ・・・タイムパフォーマンスの略。かけた時間に対する成果、「時間対効果」を意識すること。
QKさん
たしかに〜。知らず知らず、スケジュールは埋まっていきますもんね。私たちが感じる疲労について、もっと教えてください。
片野さん
疲労と「疲労感」の違いを知っていますか。
QKさん
うーん、むずかしい。疲労の強さ、弱さのことではないんですか。
片野さん
私たちがよく表現しているのは「疲労感」の方なんです。
私は犬を飼っているのですが、散歩しているとたまに止まっちゃうことがあります。犬は疲労した状態(本来の活動能力を出せない状態)と疲労感を同時に表現できるんです。動物は本能で活動能力が回復するまで待つんですが、脳が発達した人間は、疲労感を無視して、責任感や使命感などで上から覆い被す(マスキングする)ことができるんです。
QKさん
疲労感をマスキングしたまま働き続けたら、どうなってしまうんですか?
片野さん
疲労感のマスキング状態では、本来持っている活動能力を出せません。私も時には少し無理をしてひと踏ん張りすることもありますが、長く続けたり、繰り返したりして恒常化してしまうのがよくないのです。
QKさん
どうしたら、疲労をうまく感知することができるんでしょうか?
片野さん
疲労している時に、たとえばあくびが出るとか、飽きるとか、自分で感じられる感覚やサインがいくつかあります。疲労がたまると、真っ先に自律神経の乱れが出てきます。リラックスするための副交感神経ではなく、交感神経が高まってしまうと、肩こりがする、目が疲れやすいといった症状が体から出てきます。そのサインを見逃さないのが大事です。
QKさん
体の声を無視しちゃだめなんですね。
片野さん
もちろんです。発熱、痛み、疲労。これらは病気になる前の3つのサインです。
熱や痛みがある時は会社を休んでいいけど、3つ目の疲労に関しては、どうでしょう。「疲れているので仕事を休ませてください」と言えば「みんなも疲れているんだから出てこい」と言われてしまいますよね。
本来は、しっかり活力がある状態で出勤しているのが望ましい状態。なのに、実際は活動能力が低い状態で仕事に出ている場合があるのです。
休むことや休憩することは、怠けているわけではない。休んで、しっかり回復してから仕事に来るべきだと、みんなの考えが統一すればいいですね。
片野先生が、みんなの会社にもいてくれたらなあ!
プロフィール
一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事 株式会社ベネクス 執行役員
片野秀樹
博士(医学)。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所未病公認講師(休養学)も務める。編著書に『休養学基礎:疲労を防ぐ!健康指導に活かす(メディカ出版)』、著書に『休養学:あなたを疲れから救う(東洋経済新報)』。
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