
すべての人に休養を。
片野先生の思い
片野先生インタビュー #4
2025.1.27
#インタビュー
#片野秀樹
いろいろな専門家に話を聞きながら、
休憩について研究していくシリーズの第6弾。
今回は「休養学」の第一人者で一般社団法人 日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹先生。長年、疲労と休養について研究し、休養の重要性を伝えている片野さんが正しい休み方を教えてくださいます。
全4回の対談、おたのしみください。

QKさん
最終回は、片野先生ご自身の専門分野や休養法に迫ります。
これまでのお話を通して、改めて片野先生の「休養」への思いを聞かせてほしいです。
片野さん
活動を通した私の思いは、すべての人に休養を届けるために、日本人の休養リテラシーをあげることです。日本の休みに対する考え方や市場にも、課題があると感じています。
たとえばドイツやフランスなどEU諸国では「勤務間インターバル」といって、次の勤務を始めるまでの11時間以上の休息時間が当たり前になっています。こうした制度の義務化や意識改革で、日本もすべての人が休みやすい社会になっていかないといけません。
一方で、疲労の軽減、改善となるグッズは存在するものの、デパートの売り場のようにバラバラに散らばっているのも課題だと感じてきました。
そこでまとまった「休養学」という学問体系と休養・リカバリー市場という統一した新しい産業をつくるため、研究と事業のハイブリッドで活動しています。

QKさん
素敵です〜。質の良い休養をとってほしいという思いで、先生はリカバリーウェアの開発や啓発もされているということですね。なぜ衣服に着目したんですか?
片野さん
そうですね。そもそも休養にとって大切なことは、五感をどう刺激するかなのです。疲労回復のためのウェアを作るにあたって、まず私は触るという触覚をどう刺激するかに向き合いました。
現代人はどうしても交感神経優位で、過緊張になっているという課題があります。そこで、いつも皮膚にふれているもので、副交感神経優位に(リラックス)させられればと考えたのです。副交感神経を整える効果があるものといえば、動物や子どもを撫でたり、撫でられたりした時に生まれる「オキシトシン」という愛情ホルモン。 これは1秒間に数cmくらいのスピードで手を動かすと発生し、皮膚の刺激でも生まれます。そこで皮膚膚刺激で交感神経を抑制し、副交感神経を優位にさせるこの仕組みを応用し、服でやってみようと「衣服」でスタートラインに立ったわけです。
QKさん
休養にとって、皮膚の感覚って大事なんですか?
片野さん
大事ですよ。触覚を刺激する方法は2つあります。ひとつは皮膚の近くにある神経末端を刺激すること。これは昔から知られてきた方法です。
もうひとつ、2000年頃から細胞の表面に「トリップ(TRP)」という受容体があることが解明されていて、これを刺激すること。このTRPからの刺激が脳に情報を伝え、私たちの自律神経に影響を与えることが研究でわかっています。私はこの部分に注目して研究を行ってきました。
QKさん
触覚や衣服が休養につながってるってこと、意識していませんでした。

片野さん
ウェアに使用されている繊維開発を始めて約20年になります。ベネクス社のウェアは服の繊維の中に鉱物を一本一本練り込みしていて、TRPと遠赤外線により皮膚を刺激する世界初のリカバリーウェアを2009年に上市しました。最近、厚生労働省で「雑品」から「一般医療機器」のカテゴリが正式に新設されました。 疲れている方が増えてニーズも高まり、こうした新設もあって、一般医療機器の基準に準拠した製品によって市場も拡大するのではと見込んでいます。
QKさん
大きな可能性を感じます!他に、着るもので気を付けるべきことはありますか?
片野さん
衣服で気をつけるべきことを挙げるなら、水分、触感、ストレッチ性です。特に寝る時は、睡眠を阻害しない「衣服内気候」(皮膚と衣服の隙間にある空気の層)や、それぞれの人にとって快適な温度で室内環境をよくすること、寝返りしやすさにも気を配ったほうがいいですね。
QKさん
寝るときに着るものも、疲労回復のために大事なんですね。最後に、先生ご自身の休養法を教えてください。
片野さん
そうですね。まずは犬を飼っているので、犬との散歩で適度な運動。自宅の縁側で、空や雲を見てぼーっとしながら想像を巡らせる。そして、気分転換にいい景色が見られるいい温泉に行って、露天風呂に入ることで血流促進をするなどが何よりの休養です。
休養のこと、たくさん教えていただき、ありがとうございました。

プロフィール
一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事 株式会社ベネクス 執行役員
片野秀樹
博士(医学)。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所未病公認講師(休養学)も務める。編著書に『休養学基礎:疲労を防ぐ!健康指導に活かす(メディカ出版)』、著書に『休養学:あなたを疲れから救う(東洋経済新報)』。
片野先生インタビュー
前の記事
次の記事